新宿歌舞伎町の「デカメロン」1Fコミュニティスペース「⼀刻」で庄司朝美の個展「トビリシから愛を込めて」を開催中。
庄司は1988年福島県⽣まれ。多摩美術⼤学絵画専攻版画領域修了し、現在はジョージア・トビリシにて東急財団(旧五島記念⽂化財団)の助成による在外研修中。主な展覧会に「絵画のゆくえ」(SOMPO美術館、2022)、「2021年の9⽉」(gallery21yo-j、2021)、「UnknownImage Series no.8 #3 百⽬の⿃によせて」(void+、2021)、「夜のうちに」(トーキョーワンダーサイト渋⾕、2017)など。「FACE2019」損保ジャパン⽇本興亜美術賞で⼤賞、2020年に「五島記念⽂化賞」で新⼈賞を受賞する。
本展に際して、庄司朝美とキュレーションを務める⿊瀧紀代⼠は次の⽂章を寄せている。
開催に寄せて(⽂=庄司朝美)
東京から遠く離れて、トビリシはそこから直線距離で7,812 kmにある。コーカサス⼭脈南麓に位置する国、ジョージアの⾸都だ。ここから⼿紙を書いている。夜中の宙ぶらりんな時間、そこの仄暗い緑⾊のあかりの下で、誰かがここに想いを馳せられるように。定期的に届く⼿紙は読む⼈が紡いでいく物語でもあり、私の⽇常でもある。書き⼿と読み⼿の時間は、⼿紙が書かれた時から届くまでのズレを保ちながら並⾛しているために、誰もその終わり⽅を知らない。だからこの⼩さな展覧会のアイディアは、共犯者を募るための広告みたいなものだと思う。
開催に寄せて(⽂=⿊瀧紀代⼠)
私は⼿紙をしたためた事がない。
「もとい」広義ではそんな事はないのだが、⼿紙が持つ志向性、⾔い換えると「距離」というものに⼾惑いを覚えて筆が乗らないのである。
中国前漢時代末期の⽂⼈である楊雄は「揚⼦法⾔」という著書の中で「書⼼畫也(書は⼼の画である)」と述べ、本居宣⻑の著作「⽯上私淑⾔」、「紫⽂要領」や「もののあはれ」にも触れた⼩林秀雄の「本居宣⻑」という著作の中では、「こころ」という⾔葉が「⼼」、「情」、「意」、「こゝろ」と仕切りに書き分けられ、表記の違いによって⽤いられる意味の違いを⾒出すことが出来る(著作の中で⼩林が「物に⼼が在ったら」と例える箇所は個⼈的に特に関⼼がある)。また解釈を⾶躍させた私は、「時/刻」にも「こころ」とルビを振る。「朝・昼・⼣・晩」という⽇本語の中には時刻や時間帯を表す複数もの表現が存在し、デカメロン⼀階のコミュニティスペース「⼀刻」の命名や⾹時計を⼊⼝付近に置いているのも、そんなところからもきていたりするのだ。
庄司朝美というアーティストに個展を⾏って頂きたいと申し出たのは昨年の12 ⽉12 ⽇。
翌⽇に庄司さんから2⽉末にジョージアのトビリシに⾏くとの返事が届き、12 ⽉15 ⽇に本展覧会のタイトルとプランが届いた。作品は「⼿紙」という形式で送られてくる。
展覧会のタイトルは「トビリシから愛を込めて」。
私の「情(こころ)が感(うご)いた」気がした。
遠く離れた⼟地で、庄司朝美は今もきっと多くの「⼈」や「物事」に感(うご)き、筆をとっているだろう。
そして忘れてはならないのは庄司が眼差す我々もまた、「こころがうごく」⽇々を送っているという事だ。
いつ届くかも知れぬ、終わりのない作品を待ち焦がれて。
web 版美術⼿帖にて庄司朝美の連載、「トビリシより愛を込めて」も合わせてご覧下さい。
庄司朝美 「トビリシから愛を込めて」
会期:開催中
会場:デカメロン
住所:東京都新宿区歌舞伎町1-12-4
電話:03-6265-9013
開館時間:16:00~26:00(コミュニティスペース「⼀刻」に準ずる)
休館⽇:⽉
鑑賞料:無料(コミュニティスペース「⼀刻」に準ずる)
アクセス:JR新宿駅徒歩5分