アーティスト・上竹真菜美の個展「Imagining Something Unknown(知らないものを想像する)」が新宿歌舞伎町のアートスペース「デカメロン」にて開催される。
上竹は1988年鹿児島県生まれ。父の転勤に伴い、10歳から福島に移住する。2015〜16年にロンドン芸術大学チェルシーカレッジMAファインアートでの交換留学を経て、18年に東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画を修了。現在は東京とベルリンを拠点に活動している。主な展覧会に、「Imagining Something Unknown」(SomoS、ベルリン、2020)、「ゆるんだ遠近法」(gallery COEXIST-TOKYO、2017)などがある。「第17回写真『1_WALL』」(2017)ファイナリスト。
上竹は本展に寄せて次のステートメントを掲げている
「いろいろなものをなくしたけれど、海の見える景色をなくしたのが一番大きいです」
2011年3月11日の震災を経験した彼の吐露を、私は忘れる事ができない。彼が生まれ育った東北の町は震災による津波の影響で壊滅し、数年後には巨大な防波堤が立てられた事で町から海が見えなくなったと彼は語った。 被災当事者ではない私にとって、彼の「景色」をなくすという精神的な喪失の経験は、これまでの想像を超えたものだった。私はこの言葉を思い出すたび、本当の意味では知り得ない彼の経験を想像し、彼の記憶と私の想像とのあいだの距離について考えるようになった。
彼の話を聞いてからしばらく経ったある日、日本から遠く離れた土地で一人の男性と出会った。日本語はおろか、日本や震災について彼はほとんど知らなかった。私は彼に、私の体験と想像を伝達/共有する上でいくつかの段階的な接続を設け、彼がそれらを行う様子を記録した。
こうした彼らの言葉を手がかりに、誰かの経験を想像することの可能性と不可能性について考えている。
上竹が紡いだ「Imagining Something Unknown(知らないものを想像する)」を通して、当事者性が齎す緩やかな疎外を体験してほしい。