本展は、古典落語の演⽬の⼀つである「⿏⽳」を「肝に」展覧会を構成しています。
井⽥⼤介から2作品「Paper wheels」、「Honey, it is my home」を、渡邊拓也から2作品「Good luck on your journey」、「Like Gravity」の計4作品を展⽰空間へ配置することにより私たち
が抱える内⾯の反照を試みます。
フランスの詩⼈ポール・ヴァレリーは1941年の『カイエ』に、「仮に何かあるもの[の存在]をかたく信じていながら、他⽅、それを信じなくてもよいだろうということを知っているならば、この[信と知の]結びつきは、その種の定義不可能性に関わる」と「定義し得ないもの(=詩)」について述べています。
井⽥⼤介からは「労働と資源(エネルギー)」を、渡邊拓也からは「偏⾒と思い込み」をキーワードとして4作品が相互に⼲渉することでの円環が⽣じ、「虚」と「実」の「間(あわい)」を体験していただけるでしょう。
そしてその「虚」と「実」の「間(あわい)」には2つ以上の極端な存在、つまり、⾃⼰の内部における⾃他の関係と、⾃⼰の外部に広がる現実世界における⾃他の関係とが類⽐的に捉えられることを期待しています。
⿏⽳では兄が⽵⼆郎に「夢は⼟蔵の疲れだ」と⾔うことで、⽵⼆郎の危惧(思い込み)が招いた悪夢にオチをつけて終えています。危惧や思い込みが悪夢を招いたのだと。
お前の針が 蜜蜂よ
Quelle, et si fine, et si mortelle,
どんなに繊細で どんなに致命的でも
Que soit ta pointe, blonde abeille,
わたしはただ 薄紗のような眠りで
Je nʼai, sur ma tendre corbeille,
お前の⼀撃を受け⽌めるだけだろう
Jete quʼun songe de dentelle.
わたしの胸のふくらみを刺しておくれ
Pique du sein la gourde belle,
そこには愛がまどろんでいる
Sur qui lʼAmour meurt ou sommeille,
刺されたあとには⼩さな斑点が
Quʼun peu de moi-meme vermeille,
丸い⾁にそって浮き出てくるだろう
Vienne a la chair ronde et rebelle !
すばやい⼀刺しでわたしを⾒舞っておくれ
Jʼai grand besoin dʼun prompt tourment :
強烈だけれど限りある痛みのほうが
Un mal vif et bien termine
果てのない鈍痛よりも耐えやすいから
Vaut mieux quʼun supplice dormant !
わたしの感覚が
Soit donc mon sens illumine
⼩さな⾦⾊の傷に警戒し
Par cette infime alerte dʼor
愛が死んだり眠り込んだりしないように!
Sans qui lʼAmour meurt ou sʼendort !
ポール・ヴァレリー「蜜蜂」より