本展では、方角や数字、光を主なモチーフとして扱う。
例えば、或る人物が遥か遠くにある場所に向かって思いを馳せるために、その方角を向いている。iPhoneのコンパスで調べれば、直ちに方角が数字として表示される。しかし、より厳密な方向を向こうとするほど、何かを想うことが、工学的に裏付けられているようで奇妙だ。数字は本来的には暗号であり、その不透明な形相はときたまおぞましいが、あくまで実体のない仮想的なものと思うと少しホッとするし、ある想いの対象へと”より確か”に志向するため、という目的は、科学と結託しているようでむしろどこか頼もしくも感じる。何よりこの一連の装置のおかげで、たとえ地球の外に存在するような天文学的なものでも、志向される対象としては、方角の観念のもと我々は接点を持つことができる。どこかへの想いと数字、方角を通じた両者の関係性にはシニカルで危ういロマンティシズムがある。
今回は方角という観念、その仮想性が抱え込むロマンティシズムを基軸に、光や数理学的表現を介したドローイングや詩によって想いの痕跡を記述していく。