8時間1回の撮影で、その場で思いついた単語を延々と発話していく映像作品。
「あの◯◯……あの△△……あの□□……」というように、それぞれの単語の頭には「あの」という指示語をつける。
「あの」という指示語を頭に付けるだけで、すべての単語が時間的にも距離的にも”遠い”ものになる。
話し手と受け手の間には、共通の「◯◯」は想起され得ない(伝わる、ということはない)と思う。しかし、発話者の想起したものが伝わることとは別に、単語あるいは単語の連なりが”玉突き事故”のような伝わり方で、微弱であれ受け手に振動を伝えることはあるのではないだろうか。
それを引き起こすためには、「あの」という指示語の特性は非常に有効で、詩性が発生する最小の単位とも言える。
デカメロンでは2017年に国立国際美術館で発表された作品を、映像(2F)/文字(1F)/音声(外)を分けて展示。
必ず何かの情報を取りこぼしてしまう状況を演出することで、情報が齎す志向性の猛威を鑑賞者と共に再考する。